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マルチコプター型
無人機を利用した
御嶽山の噴煙観測

2014年9月27日の御嶽山噴火によって、多くの人命が奪われました。これまで火山研究に携わってきた者のひとりとして無念でなりません。噴火の犠牲となられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。

今回の噴火を受けて、関係機関が協力して緊急的な観測を行うことになりました。しかし、噴火直後は救助活動が最優先されることに加えて火口周辺域に観測機材を搬入して地上で長時間作業をすることは、二次災害の恐れがあるため事実上不可能でした。一方、火口温度や火山ガスの成分は、ある程度火口に近接しなければ測定することができません。そこで浮上したのが、無人機による観測という方策でした。
 現状で利用可能な無人機としては、固定翼の小型プロペラ飛行機や、ガソリンエンジン式の小型無人ヘリコプターがありました。しかし、これらの機体は、空気の薄い3000 m級の山では飛ぶことができません。そのため、今回は電気モーター式のマルチコプター型無人機を用いることにしました。ただし、この種の機体が火山観測に使用された実績はこれまでなく、本当に御嶽山で飛ぶことができるのかは未知でした。
 初めての試みということもあり、マルチコプターに搭載する機器の総重量は1 kg、飛行距離は片道4 km以内、機器を搭載しての航続時間は最大30分以内を目標、という大きな制約が課せられました。この条件で早急に実施できることとして、私たちは、火山ガス観測、赤外映像観測噴煙中微粒子の採取、の3つに調査項目を絞り込みました。最大1 kgという制約をクリアするためには、既存の測定装置を大幅に軽量化することが必要でしたが、担当する研究者と株式会社アミューズワンセルフのスタッフの努力により、比較的短期間でこれが実現し、2014年11月下旬に調査を行うことができました。火口からの距離と風向きを考慮して、離発着場所は火口域から約3.5 kmと3 km離れた2カ所に設定しました。今回の調査で得られた結果の一部を紹介します。

多成分火山ガス
濃度の同時測定
(マルチガス観測)

この観測は、噴煙の中に機体を入れて、どのガス成分がどのような割合で含まれているかを直接測定するものです。火山ガスは、もともとマグマに溶け込んでいた揮発性成分が気体として分離したもので、多くの場合そのほとんどは水蒸気ですが、その他さまざまな成分が含まれます。一般に、火山ガスの成分比は、地下の温度・圧力に応じて変化することが知られています。また、ガスの上昇過程で特定の成分が選択的に地下水に溶け込んだり、別の成分に変化したりすることがあります。このため、ガスの成分比は、マグマの深さや山体内部の構造を推定する手がかりとなります。
図1に示したのは、11月21日の観測飛行で得られた結果の一部です。13時55分頃から14時00分頃に、二酸化硫黄と硫化水素に濃度の高まりが見えます。この時間帯は無人機が噴煙に入っていた部分で、二酸化硫黄は最高で約0.35ppm、硫化水素は最高で約3.5ppmの濃度を示していました。このことから、二酸化硫黄は硫化水素のおよそ10分の1(体積比)であることが明らかになりました。硫化水素の方が二酸化硫黄よりも圧倒的に多いという今回の結果から御嶽山の噴煙は、マグマ由来のガスがそのまま放出されたものではないことが推測されます。これは今回の噴火が、マグマが直接的に関与しない水蒸気噴火であったとされていることとも矛盾しません。


熱赤外映像観測

この観測では、無人機に赤外線カメラを装着して、地獄谷火口域の温度分布を上空から測定しました。図2は、火口から約1 kmの距離から無人機で撮影したサーモグラフィと、それに対応する可視画像の一例です。これは調査当日にもっとも優勢であった噴気孔で、最高温度は噴気の根元付近で90.6℃を示していました。遠隔測定のため実際の噴気温度よりもやや低い値が得られている可能性がありますが、ほぼこの地点の水の沸点温度と同じです。このことは,比較的浅いところで水が沸騰していることを示唆するもので、やはり今回の噴火が水蒸気爆発であったとされていることとも整合的といえます。
 今回の調査は,初めての試みだったこともあり、準備段階から現場作業に至るまで試行錯誤の連続でした。この手法は、まだ気象庁などの観測業務に乗せられるほどには確立していませんが、今後、御嶽山をはじめ他の火山にも広く適用できるのではないかと考えています。


上にも述べたように、今回の調査結果からは、御嶽山の噴煙に含まれる火山ガスは、地下浅部に到達したマグマから揮発して直接出てきたものではないことが推測されますが、二酸化硫黄と硫化水素を合計した硫黄(S)の総放出量は必ずしも少ないとはいえません。硫黄は、もとを辿ればマグマから供給されていると考えられます。水蒸気噴火でありながら、どうしてこのように大量の硫黄成分が放出されるのかを解明することは今後の課題です。1979年の水蒸気噴火後の推移との比較は、今後の予測のための重要な手がかりとなりますから、引き続きガス放出量や成分比を注意深く見ていく必要があると考えています。

本調査は、北海道大学理学研究院、東京大学理学系研究科、東京工業大学火山流体研究センター、富士山科学研究所、産業技術総合研究所の研究者による共同で実施しました。本調査には、科研費特別研究促進費「2014年御嶽山火山噴火に関する総合調査」の一部を使用しました。現地調査にあたっては、火山噴火予知連絡会御嶽山総合観測班の枠組みで活動し、王滝村および木曽町の許可を得て規制区域に入域のうえ気象庁の火山活動監視の援護を受けて実施したものです。なお、無人機の飛行は、国土交通省東京空港事務所と協議し所定の手続きを経て長野県、陸上自衛隊等と調整のうえで実施しています。

橋本 武志

北海道大学大学院理学研究科 准教授
専門は地球電磁気学・火山物理学