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考古学における
新たな計測の
可能性

考古学は、墓に埋葬された財宝やミイラなど、「モノを掘り出す」仕事だと考えられています。しかし、実は、私たちの主な仕事というのは、過去の「情報を記録する」ことです。これによって、人間がどのように文明を築き上げたのか、巨大なピラミッドはどのように建造されたのか、当時の社会はどのように機能し、そこで人々はどのように暮らしていたのかを探ることができます。突き詰めて言えば、私たちが知りたいのは「人間とはいかなる存在であるのか」ということです。それを知るために、私たちは記録するのです。

エジプト考古学の父と謳われたイギリス人考古学者フリンダース・ピートリー卿は、発掘現場に持って行く最も重要な道具としてカメラを挙げました。それは瞬時に、素早く、あらゆるものを記録します。考古学において、写真は生データとして最もインフォーマティブなものとして考えられています。


近年、私は、多国籍産学共同プロジェクトのメンバーとして、エジプトの世界遺産の1つであるメンフィス地区で、巨石建造物の3D計測を始めました。これまでの写真のような2Dの記録から、さらに現実に近い3Dの記録を行うことにしたのです。信じられないかもしれませんが、実は、大ピラミッドの石を一つ一つを示すような計測データはいまだ取られていません。

3D計測としてよく知られているのがレーザー・スキャニングです。1秒間に何万、何十万点ものレーザーを対象物に放射し、「点群」として形状を記録します。しかし、問題は、多大なコスト、そしてトータルステーションのように地面に設置して測るため、ピラミッドのような形状の計測を行うと、上部のデータが取れないということです。


この二つの問題を解決する技術として紹介されたのが、αUAVによる写真測量です。これまで極めて困難だったピラミッドの超高解像度オルソ画像の生成や、そこから3Dデータを生成することも可能であり、ピラミッド建造に関する新たな情報が手に入るのではないかと期待しています。さらに、通常のUAVとは異なり、αUAVの8枚構造のプロペラは、墜落事故による遺跡の損壊のリスクも大幅に減らしてくれるため、文化財の計測に向いているでしょう。

UAVによる写真測量は、ピラミッドだけでけでなく、『王家の谷』のような入り組んだワディ(砂漠の涸れ谷)の全域の3Dデータを造り上げたり、ギザの『ピラミッド・タウン』を定期的に撮影することで、サイト・マネージメントの一環としても役に立つでしょう。おそらく、この技術は、エジプト考古学におけて新たな、スタンダードな計測方法になり得るのではないかと思っています。


河江 肖剰

エジプト考古学者(Archaeologist / Egyptologist, PhD)。
ギザのピラミッドを築いた人々の古代都市「ピラミッド・タウン」の発掘、並びにメンフィス地区の巨石建造物の3D計測調査に従事。
古武道、CQC修練中。